渇望
「何があったか知らねぇけどさ、お前のこと泣かせることしか出来ねぇヤツならやめとけよ。」


あぁ、そうだよね。


瑠衣は今まで一度として、あたしに愛してる、なんて言ってくれなかったんだ。


そんなことを、今更のように思い出してしまう自分が嫌になる。


瑠衣は今、詩音さんと一緒にいる。


それを想像するだけで醜い感情にばかり支配されて、苦しくて堪らないよ。


ジュンは半分ほど開いた窓の外に煙草を投げ捨てると、最後の煙を吐き出した。



「なぁ、俺じゃダメなわけ?」


恐る恐る顔を上げると、視線がぶつかった。


だから思わず目を逸らしてしまえば、ジュンの影が近くなる。


唇が触れそうな距離になった瞬間、



「やめて。」


言ったあたし自身の声が震えていた。


彼はバツの悪そうな顔ですぐにごめん、と言い、気まずい沈黙に包まれる。



「あたし、瑠衣との子供いるの。」


今度ははっきりとわかるほどに驚いた顔で、ジュンは嘘だろ、と声を漏らす。


だからまた涙が溢れた。



「百合、アイツの子供産むってこと?」


無言のままに頷いた。


するとジュンはやっぱり悔しそうな顔をして、



「何でだよ、どうしてお前は苦しむ方ばっか選ぼうとするんだよ!」

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