渇望
だって確かにお腹は痛いけど、妊娠初期にはそういうこともあるって言うし、第一あの子はここにいたんだよ?


瑠衣とあたしの赤ちゃんなんだよ?


パニックになったあたしを抑えつけ、ジュンは落ち着けよ、落ち着けよ、と繰り返す。


その瞬間、涙が溢れた。



「…あたしの、所為だっ…」


一瞬でも、お腹の子供を疎ましく思っていた自分がいた。


アキトの身代わりのようにしか考えず、瑠衣を繋ぐための道具のようにさえ思っていたこともあったから。


だからこれは、天罰なんだ。



「百合、まだ麻酔が完全に切れてないから。
それに術後だし、安静にしてなきゃ。」


どうしてジュンは、自分の子供でもないのに、あたし以上に傷ついた顔をしているのだろう。


そして何故、ここに瑠衣はいないのだろう。


お揃いの指輪には、何の効力もない。






ごめんね。

ごめんね。

ごめんね。



泣いていたのは、
ふたりの赤ちゃん。




殺したのは、あたし。









< 359 / 394 >

この作品をシェア

pagetop