渇望
あたしが瑠衣のためにしてあげていることといえば、寝起きにコーヒーを淹れてあげる程度のものだ。


料理をするのは嫌いではないが、でも通い妻のようなことをしたいとも思わないし、彼もまた、何を求めることもない。


ただ、一緒にいるだけ。


更けていく夜と、それに反するネオンの輝き。


あたし達はあの頃、この街で懸命に生きるために、孤独に耐えるために、身を寄せ合っていたのだろう。


名前のない関係だった。







その日、仕事を終わらせてやっと帰宅を許されたのは、夜の8時を過ぎた頃。


街はすっかりネオンの色に支配されていて、見慣れていてもため息が混じる。


いつものようにうつむき加減で歩いていると、「百合!」と名前を呼ばれて驚いた。


顔を向けてみれば、アキトの姿。



「偶然じゃんか!」


相変わらずの綺麗な顔に、思わず顔がほころんでしまう。


ホントだね、なんてあたしが笑うと、彼が歩き出したので、その横に並んだ。



「瑠衣と一緒に暮らしてるんだって?」


それが当然のように、アキトは問うてくる。


一緒に暮らしてる、なんて言葉で括る感じではないのだけどな、と思うと、曖昧に笑うことしか出来なくなるが。



「百合は瑠衣が好き?」

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