渇望
足を止め、彼はあたしへと顔を向けた。


貼り付けたような笑顔と、そして冷たいまでの瞳が滑らされる。



「瑠衣は、なんて言ってた?」


立ち止まっているあたし達を避けるように、人の波が動いている。


まるでこの場所だけ切り取られたかのようで、気付けばあたしは、足元へと視線を落としていた。



「アイツは何も言わないよ。」


「じゃあ、百合はどう思ってる?」


詰問のようで、居心地が悪い。


この前は居酒屋で馬鹿みたいに騒いでいたくせに、そんな姿さえ嘘のよう。



「嫌いじゃないよ、瑠衣のこと。
あたしは多分、あの人のこと嫌いにはなれないと思うから。」


言ってみれば、アキトは肩をすくめるように、宙を仰ぐ。



「なぁ、瑠衣はやめといた方が良いと思うよ。」


「……え?」


「あの男は百合が思ってるようなヤツじゃないし、何を企んでるかわかんないから。」


アキトの言葉の意味がわからない。


そしてこのふたりの関係は、一体何なのかと思う。


仲良く見せて、でも互いに影で、もっと別の何かを腹の底に押し込めているかのよう。



「アキトは瑠衣が嫌いなの?」


「まさか、そんなわけないじゃんかぁ。」


益々意味がわからない。


アキトはいつも鉄仮面をつけているみたいで、だから隙のない男だと思う。

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