渇望
「あんたらの関係って、何?」


そう聞いた瞬間、アキトは口元に人差し指を突き立てた。



「内緒だよ。」


まぁ、教えてくれるなんて思ってなかったけど。


諦めるように宙を仰いで肩をすくめると、アキトは視線を人波へと滑らせた。



「俺らのことは、聞かない方が良い。
醜いものばかりが渦巻いてて、だから百合は立ち入らないで。」


柔らかい言葉で、吐き捨てられた。



「それは、誰のため?」


それぞれのためだよ、とアキトは言う。


恐ろしく冷たい瞳に変わりはなくて、瑠衣の悲しさの混じるそれとは違う。


この人は一体、そこに何を映しているというのか。



「まぁ、仲良くね。」


でも、やっぱり最後は笑顔を見せられた。


刹那、この場所だけ張り詰めていた空気を打ち破るように、あたしの携帯の着信音が鳴り響いた。


アキトはそれに気付き、またね、と言って再び人の波に消えてしまう。


息を吐いてあたしは、取り出したそれの通話ボタンを押した。

< 38 / 394 >

この作品をシェア

pagetop