渇望
風邪をこじらせ、入院してそのまま、帰らぬ人となってしまったのだ。


あたしとジュンの喪失感は、言葉には出来ないほどだった。


おばあちゃんには、本当に色々なことを教わったのにね。


葬儀を終えて、結局あの家は取り壊されることとなり、それからふたりだけで暮らす日々が始まった。


それでも、決して広くはないアパートを借り、頑張ろうと話したね。


けれど、あたしよりずっと辛かったろう彼は、更に仕事も忙しくなり、同じ部屋で暮らしていても、徐々にすれ違うことが増えていった。


喧嘩をしたわけではない。


互いに忙しいからこそ一緒にいられる時間は大切にしていたし、愛してる気持ちだって変わりはなかったはずなのに。


なのに、ダメだった。


原因なんて明確なものはないけれど、でも、少しづつ会話が減り、相手のことがわからなくなり、どんどん苦しくなるばかりだったから。


ならばもう、別れよう、と。


それが、今年の春の出来事だ。



「俺、今でも気持ち変わんないし、出来る事なら百合とやり直したいなって思ってるけどさ。」


「うん。」


「でも今はこのままの距離でいる方が良いのかな、って。」


ジュンはグラスに移し替えた牛乳を流し込み、そう言って肩をすくめる。


あたしは黙って頷いた。



「まぁ、先のことなんてわかんねぇし、今は色んな事精一杯やるよ、俺。」


ジュンはずっと昔から変わらないね。


だからそんな言葉に、あたしはどれほど救われてきただろう。



「行こうか。」

< 383 / 394 >

この作品をシェア

pagetop