渇望
外に出ると、さすがは7月も終わりの快晴だ、太陽が近く感じるほどに暑い。


ふたり、車に乗り込み、これから向かうのは、二年前に過ごしていた場所。


あの街へ行く。



「仕事、どう?」


ジュンは運転しながら、横目で聞いてきた。



「まぁ、お給料は安すぎて困るけど、仕事自体は楽しいよ。」


「向いてると思うよ、俺は。
昔のお前なら考えられなかったけどさ、人って成長するもんだよな。」


ケラケラと笑うジュンに口を尖らせ、どういう意味よ、とあたしは言う。



「だってホテヘル嬢だった百合が、今や介護の仕事してんだからさぁ。」


一時期は、二番目の兄であるそうちゃんの弁護士事務所のお手伝いをしていたこともあったけど。


でも、おばあちゃんが亡くなってから、あたしは老人介護の施設で働き始めた。


体を売ることでしか生きられないと思っていた頃もあったけど、今はお年寄りの方々の笑顔を励みに何とかやっている。


全然おしゃれとは無縁だし、きっとあの頃よりずっとメイクも薄くて変な顔してんだろうけど、でも、もう着飾って生きるのはやめたから。


今は、介護士の資格を取るために勉強中だ。



「てか、今や経営者のジュンちゃんに言われちゃうと腹立つけどね。」


彼は今、ホスト時代に貯めたお金を元手に、地元で採れた有機野菜をベースにした飲食店を開業。


これがなかなか人気らしく、忙しく働いているのだという。


そんな格好良いモンじゃないよ、なんてジュンはいつも言うけれど、立派なことだとあたしは思う。


この二年、やっぱり楽しいことばかりじゃなかったけど、でも、あたし達はそうやって生きてきたね。


少しだけ、大切にしたいと思えるものも見つかったんだ。

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