渇望
二時間を掛け、到着した場所は、いつか暮らしていた街から少し外れた場所にある、霊園だ。


今日はアキトの命日だから。


一通り墓の掃除を済ませ、しゃがんで手を合わせていると、不意にジュンは口を開いた。



「俺、アキトさんって話したことないんだけどさ、よくオーシャンで見掛けてて。」


「うん。」


「男から見ても綺麗な顔してんなぁ、って思ってたよ。」


そう言って、彼は思い出したように笑った。



「アキトにはね、色んな事で助けてもらってたと思うんだ。」


抜けるような青い空には、入道雲が大きく連なっている。


あたしが一口吸ったパーラメントを供えるようにそこに置くと、煙は風に流され溶けて行く。



「もっと生きててほしかった。」


「うん。」


「ごめんね、って言えないまま別れちゃったからさ。」


未だに思い出せば、後悔ばかりだ。


けれど、アキトを忘れないであげることだけが、今のあたしに出来る精一杯。



「供養ってさ、泣いてあげるばかりじゃダメなんだって。
ちゃんと相手が死んだことと向き合って、受け入れて、立ち直ることが大切だって聞いたことあるよ。」


ジュンはそう言ってから、立ち上がった。


あたしも同じように立ち上がり、帰ろうとして階段の方へと顔を向けた瞬間、トクン、と胸が鳴る。


信じられなかった。


だってそこには、二年前、夜の街で身を寄せ合うようにして共に生きていた、あの人の姿があったから。



「…瑠、衣…」

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