渇望
見た目は少しだけ変わっていたのかもしれない。


けれど、確かに今、目の前には瑠衣の姿があって、彼は似合わない花束なんかを手にしている。


思考がまるで追いつかない。


だって、もう会うことなんてないと思っていたはずなのに。



「元気だった?」


その問いかけに、あたしは黙って頷いた。


横にいたジュンはそんなあたしを一瞥してから、困ったように肩をすくめる。



「百合、俺そろそろ行くわ。
ゆうくんとの待ち合わせ時間近いしさ、何かあったら携帯鳴らして。」


彼はそのまま、目前の瑠衣に軽く会釈をし、ひとりきびすを返してしまう。


ふたりっきりにされても、それはそれで困るんだけど。



「さっきのアイツって、確か…」


「あぁ、ジュンだよ。
オーシャンの元ホストの。」


「良かったの?」


「うん、一緒に来たんだけど、どうせこれから別行動する予定だったしね。
何か、友達に会うって言ってたから。」


あまりにも普通に話せていた自分には、少し驚いたけれど。


でも、一体何を言えば良いのかもわからなくて、ただとりあえず、心臓の音はかなりうるさい。


瑠衣はふと柔らかく笑う。



「まさか会えるなんて思わなかった。」


もしやこれは、アキトのサプライズではなかろうか。


そう思うと、一体どんな顔をすれば良いのかもわからないけれど。


瑠衣の手にある花束には、いくつもの大輪の向日葵が咲き乱れている。

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