渇望
「ねぇ、お墓参りにその花ってどうなのよ。」


あぁ、これね、と彼は、思い出したように笑った。



「花屋で大切なヤツにあげたいから適当に包んで、って店員に言ったらさ、何か勘違いされてこういうのになったんだ。
けどまぁ、アキトっぽいから良いかな、って。」


「何それ、馬鹿じゃん。」


あたしが笑ったら、瑠衣も笑った。


笑いながら、あの街での日々が一瞬のうちに蘇って来て、ひどく懐かしい気持ちにさせられる。


例え見た目がどんなに変わっても、人の根本というものは、きっと変わりはしないのだろう。


彼は少し安堵したような息を吐く。



「ありがとな、アキトのために来てくれて。
覚えててくれて、アイツもきっと今、どっかで喜んでると思うしさ。」


「忘れたりなんかしないよ。」


あの頃のことも、共に過ごした人たちのことも、何もかも。


思い出すとやっぱり泣いてしまいそうになるからこそ、あたしは宙を仰ぐ。


瑠衣がこんなにも穏やかな顔をして話すようになったのは、一体誰のおかげなのだろう。


あたしにも時間が流れたように、彼にもまた、同じだけの時間が流れた証。



「なぁ、百合これから時間ある?」


「……え?」


「お前のこと連れてってやりたいと思ってた場所、あるんだ。」


瑠衣は言う。



「花火、見せてやるはずだったとこ。」

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