渇望
瑠衣の車に乗り込んだ時、微かに、だけど懐かしい香りがした。


アキトの香水だ。


運転席に座り、煙草を咥えた彼の手には、やっぱりあのジッポがあって、少しばかり笑ってしまう。


こんな形になってしまったけれど、でも血を分けた兄弟は、今もきっと一緒に生きているのだろうから。


そんなことに、ひどく救われた気がしたよ。



「あ、これ何?」


そこでふと目に留まったのは、ダッシュボードの上に無造作に置かれている雑誌。


どうやらインテリア系のものらしいけど。



「俺、今そういう仕事してるから。」


瑠衣はあの頃と同じパーラメントの煙を吐き出しながら、少し得意げに言った。



「別に何がやりたいってわけでもなかったんだけどさ、ほら、アキトそういうの好きだったじゃん?
で、まぁ、さすがに俺には建築士なんて無理だから、ネットで家具とかインテリア用品を買いつけてね、色々と。」


「うそっ、すごいじゃん!」


「だろ?」


ジュンが言ったように、瑠衣はこの二年の間にアキトの死と向き合い、そして自分なりの答えを出したのかもしれない。


ちゃんと前を向いて生きているんだね。



「シャブもさ、もうやめたし。」


「うん。」


「だから今は少し、人に胸張れるようになったかな、って。」


そう言って、彼は苦笑いを浮かべてくれる。



「もう、誰のことも悲しませない生き方がしたいんだ。」

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