渇望
この街に来て、仕事以外で誰かに抱かれたことなんてなかった。


同じ行為をするのに、お金以外には何の違いもないけれど、でも、この人の腕の中にいたいと思う。


瑠衣はきっと、他の女を抱いている。


それに多分、あたしが他の男に抱かれているのだって気付いているのだろうけど、だからこそ、必要以上に求めて来ないのかもしれない。


心の隙間を埋めたかった。


それは多分、互いに同じだったろう。


でもあたし達は、そんな方法さえ知らず、だから距離を取ってみたり、肌を合わせてみたり。



「百合。」


彼によって呟かれた名前が、宙を舞う。


相手の傷に触れるより先に、自分自身を浄化する術を探していた。


隠せない弱さと孤独の中で、あたし達はもがき苦しんでいたのだろうと、今では思う。



「ダメだよ、瑠衣。」


決して溶け合うことなんてなかったのに。


なのに指先を絡め、口付けを交わし、互いの熱を求め続けた。


月明かりに照らされた瑠衣の瞳が、幾分苦しそうに細められる。


ただ、綺麗だと思った。


だから涙が出そうになって、気付けば意志とは別に、言葉は口をついていた。



「寂しかった。」


捨てたはずの感情に、苦しめられる。


あたしは瑠衣を救えないし、瑠衣もまた、あたしを救うことなんてないだろう。


言葉なんてなくなれば、きっとあたし達は、傷つけることも、傷つくこともなかったはずだ。

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