渇望
行為の終わり、瑠衣は煙草を咥え、思いついたように聞いてきた。



「なぁ、お前の百合って名前、花のユリから取ってんの?」


「そうらしいけど。」


言ってから、思わず苦虫を噛み潰したように聞いてしまう。



「花言葉、知ってる?」


「…花言葉?」


今度いぶかしげに問うたのは、瑠衣の方。


苦々しいほどの煙を吐き出しあたしは、それにため息を混じらせた。



「威厳・純潔・無垢、だよ?
あたしはそんなもんじゃないから。」


親が何を望んでこんな名前にしたのかは知らないが、所詮は理想論でしかない。


人は綺麗なままではいられないし、無垢でいられるのなんて赤ん坊くらいのものだろう。



「似合ってないでしょ?」


思わず自嘲気味に笑ってしまうが。



「花言葉なんて、人間が後付けしたもんじゃん?
だから関係ねぇよ、そんなもん。」


けどさ、と彼は言う。



「凛としてる花だよ。
だから似合ってる、お前らしくて。」


大嫌いな名前と、大嫌いな花。


体を売ってて、それが綺麗なわけないじゃん。


そう言葉にしてしまいたいくらい苛立って、無意識のうちに唇を噛み締めてしまう。



「こんな街じゃなかったら、もっと綺麗に咲くんだろうな。」


瑠衣の呟きが、物悲しい。


家族に見切られ、故郷を捨てて、この街で生きていくと決めたのに。

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