渇望
孤独なんてものは、もうとっくに飼い慣らしていた。


けれどこの街は、そんなものにまみれていて、だから人は、誰かと繋がろうとする。


そして一番手っ取り早いのが、体なのだろうけど。


もう忘れてしまったはずの記憶に蝕まれそうで、やっぱり怖くなる。



「アンタがどんなユリを想像してんのか知らないけど、鬼ユリって気持ち悪い色してんだよ?」


「そりゃあ人間が見て、ってだけだろ?
つーかお前、何ムキになってんの?」


瑠衣の言葉は当然なのかもしれない。


けれども優しくされる分だけ強がれなくなってしまいそうで、だからまた、唇を噛み締めた。


自分がこんなにも子供じみていたことに気付かされ、だから悔しくなる。


くだらない過去に囚われて、つまらないことに悲しくなって。


故郷からも親からも、ただあたしは、逃げただけだというのに。



「ごめん。」


呟くと、瑠衣によって抱き締められた。


あたし達はこうやって、弱さと弱さを重ね合わせながら、互いの存在に縋っていたのだろうけど。



「自分の名前、嫌い?」


瑠衣はあたしを抱き締めたまま、問うてくる。


その胸の中でこくりとだけ頷くと、頭を撫でられ涙腺が緩みそうになる。


握り潰されたのは、あたしの心だったのか、ユリの花だったのか。



「でも俺は、お前の名前好きだよ。」

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