渇望
お昼の街は、裏の顔を隠し、若者で溢れていた。


瑠衣はサングラスをして歩き、やっぱり怪しさが滲み出ていて笑ってしまうのだけれど。



「アンタ、もうちょっとにこやかな顔してよ。」


「無理無理。
俺、街って苦手だし、人混みに酔う。」


ならば、何故連れてきてくれたのか。


笑いながら、怪訝な顔をする彼の腕を引っ張り、ファッションビルに入った。



「女ってホント買い物好きだよな。」


ボディーショップに連れ立ったあたしに向け、そんな嫌味さえ言われる始末。


でも、瑠衣を無視し、イチゴの香りのするボディークリームを手に取った。


彼は呆れたように笑っていて、でも、随分優しい顔をしていると思う。



「それ、いっつも風呂あがりにつけてるやつ?」


「そうそう。」


「甘くて美味しそうだと思ってたけど。」


そう言ってから、瑠衣はあたしの手に持つそれを取り上げた。



「百合って名前なのにイチゴの香りが好きだって、変だと思う?」


「思うわけねぇだろ。」


なんて言い、



「買ってやるよ、こんくらい。」


そして彼は本当に、あたしのボディークリームを買ってくれた。


確かにそう高いものではないけれど、でも、何だかもう、驚くことしか出来なかったのだけれど。


会計を済ませ、腕を組んで歩いていると、恋人みたいに見えるから不思議だ。


瑠衣のそういう優しさは、知っている。

< 52 / 394 >

この作品をシェア

pagetop