渇望
ベッドの中でまどろみながら、あたし達は息遣いを整えるように、軽いキスを繰り返した。


冷え切っていた互いの体には、情事の熱が宿っている。


まるで獣のような男。


無機質なだけの家具には大した統一感もなく、ただ必要最低限の物を寄せ集めただけのような感じ。


だから物が多いわけではないのに、乱雑として見えた。



「百合。」


ふと、名前を呼ばれたことには驚いた。


互いに咥えた煙草はパーラメントで、彼はあたしの髪を梳く。


瑠衣はベッドで後ろ手に手をつき、何故か楽しそうなご様子を貫いていた。



「アンタ変な男だね。」


笑いながら、ふと目に留まったのは、彼の腹部の傷痕だった。


その視線に気付いたのだろう瑠衣は、「気になる?」と聞いて来る。


あたしは首を横に振った。



「人の傷ってさ、触れちゃダメなんだって。
目に見える傷の奥には必ず、目に見えない傷があるから、って。」


言ってみれば、彼は驚いたように目を丸くする。



「体の傷はそのうち癒えるけど、心の傷なんて簡単には癒えないでしょ?
だから他人が興味本位で触ると、そこからバイ菌が入るから、ってさ。」


あたしはただ、そんな風に言いながらも、人の傷を恐れているだけだろうけど。


だってきっと、聞かされたって何も出来ないだろうから、ならば安易に聞かない方が良いということ。

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