渇望
「まぁ、例え目に見えた傷がなくても、人は誰でも心に闇を抱えてる、なんて言うけどさ。」


「…お前も?」


「さぁ、どうだろうね。」


目に見えた傷を持たないあたしには、内側なんて見えなくて、だからそこに傷を負っているのかなんて定かではない、ってだけ。


何より、それに気付けば今まで知らずに済んでいた痛みに、目を向けなくてはならないのだろうし。



「てか、何か生きるのって大変だよね。」


自嘲気味に笑ってしまい、すると瑠衣は、そんなあたしをそっと抱き締めた。


その腕は、優しいというよりは、どこか弱々しくも感じてしまう。


それを振り払えないあたしもまた、あの頃、この人と同じくらい弱かったのかもしれないけれど。



「苦しいよ、馬鹿。」


傷はひとりで抱えるものじゃない、なんて人は言う。


けれども背負えないなら、ふたり、共倒れになってしまうだけだというのに。


なのにどうしてあたしは、この瞬間、瑠衣を抱き締め返してしまったのだろう。



「ねぇ、ビールある?」


冷たい瞳は、まるで鏡の中の自分自身のよう。


だから内側を覗かれている気がして、いたたまれなくなりそうだ。


不健康なまでに細い体は、だけども脆さゆえに美しくも見えた。


こんなにも儚い人を、あたしは知らない。

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