渇望
千切れてしまえば良いし、このまま殺してくれたって構わない。


それを望む一方で、いつも泣き出してしまいそうな自分が顔を出す。


ジュンが言うように、この仕事でなければならない理由はないし、辞めるのは簡単なんだとも思う。


けれどもあたしは、この街で、居場所を求めていたのかもしれない。


瑠衣はきっと、そんなあたしのことさえ見抜いていたのだろうと、今では思う。



「エサだ、拾え。」


投げ捨てられた紙切れは、宙を舞い、床に落ちた。


這いつくばうようにばら撒かれた金を拾うと、高田さんは満足げな顔をする。


このお客との時間は、いつもこうやって終わりを告げるのだ。


身支度を整え終わっている彼は、そんなあたしを一瞥し、労いの言葉ひとつ掛けるでもなく、ひとり部屋を出た。


体中は軋むように痛みを放っていて、鼻を刺す臭いに吐きそうだ。


お風呂場の鏡で見た自分の姿は、メイクも落ちかけで、髪はぐちゃぐちゃに乱れていて、目も当てられないとはこのことだろう、と言った風。


おまけに至るところが赤くなっていて、腕には縛られていたのが一目瞭然のような痕まで残っている。


だから笑いさえ込み上げてきた。


だってこれじゃあ瑠衣には会えないだろうから。


念入りに体を洗い、ホテルを出た。


待ち構えていたジローの車に乗り込み、まだ口の中に残るざらざらとした感触を拭うように、煙草を咥える。



「お疲れ様。」


事務的にそんな声を掛けられ、車は走り出した。


この車のオーディオは、いつも壊れてんじゃないのかと思うほど、うるさく揺れる。


それが嫌いだった。

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