渇望
携帯を取り出し、瑠衣に今日は用事が出来た、とだけメールを入れた。


恋人同時でもないのに毎日連絡を取り合っているあたし達は、一体何なのか。


送信ボタンを押したと同時に、「大丈夫?」と横から声を掛けられた。


驚くように顔を向けてみれば、けれどもジローは大して心配もしてないような顔だ。



「何が?」


「腕、痛そうだと思って。」


長袖からでも覗く、情事の痕跡。


そこを一瞥され、あたしはあからさまに舌打ちをした。



「あたしが腕縛られて稼いだ金のおこぼれ貰ってるくせに、何?
心配する素振りくらい、もっと上手くしてみなさいよ。」


八つ当たりに近かったのかもしれない。


それでもジローは、無表情を崩すことはなかった。


この車も、その顔も、大嫌いだ。



「アンタ結局、詩音さんの飼い犬じゃん。」


吐き捨てるように言ってやった。


睨むような瞳が、こちらへと滑らされる。



「男に股開いて稼ぐしか出来ないヤツに言われたくないけどね。」


「アンタだって似たようなことやってんでしょ。」


ジローだって店の女の子に色を掛けて繋いでるじゃないか。


詩音さんの命令なら、誰だって抱くくせに。


唇を噛み締め、ポーチを投げつけた。



「あたし、歩いて帰るわ。」

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