渇望
何だか変なことになってしまったかな、なんて思いながらも、乾杯をした。


別にお腹が空いているわけじゃあない。


なのに酒を飲むから、肉の焼けた匂いとアキトの独特の香水の香りで、気分が悪くなりそうだ。


瑠衣はあたしの手首の痕に気付き、一瞥したが、何も言わなかった。



「いやぁ、労働の後の一杯は最高!」


アキトはいつも笑っている。



「お前何もしてねぇだろ。」


「瑠衣は細かいこと言い過ぎ!
そんなんだと百合に嫌われちゃうよー?」


小馬鹿にするような言い方。


アキトは、わざと瑠衣を怒らせるようなことを言っているのかもしれない。


刹那、鳴り響いたのはあたしの携帯の音だった。


弾かれたようにそれを持ち上げてみると、“詩音さん”と表示されている。



「ごめん!」


と、言ってから、個室の外に出た。


詩音さんが直接電話をしてくるなんて、珍しいことだ。



『百合ちゃん、大丈夫?』


急いで通話ボタンを押すと、聞こえてきたのはそんな言葉。


何についての心配かわからずにいると、



『ジローが、百合ちゃん体調不良だって。
だから送り届けたって聞いて、驚いて電話したのよ。』


体調不良で、送り届けた?


よくもまぁ、そこまでの嘘をぬけぬけと。


鼻で笑いそうになりながらも、「平気です。」とさらりと言った。

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