渇望
『そう、良かったわ。
じゃあ、明日も大丈夫かしら?』


「はい。」


会話はそれだけだった。


だから携帯を閉じ、一息つくようにため息が漏れてしまう。



「怒ってる?」


刹那、耳に触れたのは、室内からの話し声だった。


障子一枚を隔てただけだ、聞く気がなくても漏れ聞こえる。



「瑠衣、まさか百合のこと本気だって言わないよね?」


アキトの言葉。


あたしのことだと思うと、障子を開けようと触れそうだった手が止まる。



「どうせまた、利用してるんでしょ?
そういうの得意だもんね、瑠衣は。」


利用、してる?


その言葉の意味がわからない。



「可哀想だね、百合。」


刹那、ドンッ、と響いた鈍い音。


机を叩いたのか、外にいても、思わず身をすくめてしまう。



「俺にも勝てねぇヤツが、負け惜しみかよ。」


瑠衣の声だ。


勝つとか負けるとか、利用するとか。


このふたりの関係と、そしてあたしの存在は、一体何だと言うのか。



「俺がアイツと何してようが、部外者のてめぇにゃ関係ねぇだろ。」

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