渇望
どうやって障子を開けたのかなんて覚えてない。


けれど、弾かれたようにふたりの瞳がこちらを向き、瑠衣は舌打ちを混じらせた。


アキトは胸元の乱れたジャケットを直し、笑う。



「聞いてた?」


「何か話してたの?」


何食わぬ顔で言えただろうか。


アキトは相変わらず、今しがたのことさえ聞き間違いであるかのように、何でもないよ、と言うだけ。


この部屋を覆う緊張感に、押し潰されてしまいそう。



「百合、帰るぞ。」


「…えっ…」


と、思った瞬間には、瑠衣によって手を引かれていた。


アキトは肩をすくめる仕草を見せるだけで、特に引き留めようともしない。


店の外に出ると、瑠衣はため息を混じらせた。



「お前、どうせアイツに無理やり連れて来られたんだろ?
あっきーは我が儘王子だからなぁ。」


優しく笑って、彼はあたしの髪を梳いた。


それはいつもと同じ顔で、冷たさと悲しみの混じる瞳が揺れる。


瑠衣は何も聞かないし、何ひとつあたしを責めるようなことも言わない。



「おいおい、何で泣いてんだよ?」


泣いているつもりなんてなかった。


それでも瑠衣が困ったように笑うから、徐々に視界が歪んでいく。



「好きなの。」

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