不器用に、キミと。
夏だ!海だ!恋だーっ!
すうーっと大きく息を吸い込むと、塩のにおいと焼きそばのにおいがした。
容赦ない太陽の光が差し込む。
賑わう店内。
「ねーちゃん!ビール一本!」
「はーい!」
隣の町の海のお店、ほたる店でバイトして2日め。
仕事内容はだいたい把握できて、接客にも少し慣れてきた。
胸下まである黒い髪を緩くサイドで小さく輪を作り、余った髪は流していたけれど、店内の熱気で汗が止まらない。
暑い。だから嫌だったんだ。
私の意志だけでこんなところには来ない。
絶対、絶対。
お客にビールを運ぶと、額から流れる汗を拭ってこの前のことを思い出す。
だって、ここにいるのはキョウジの弟、セージの頼み…いや、陰謀のせいだから。
『お願い!まじ、あそこなかなか稼げるって!』
キョウジと仲直りした次の日、セージから連絡があり会うことになってしまった。
『海のバイトなんて暑くて疲れるだけでしょ!バイトしたいなら、ひとりですればいいでしょう!?』
『店長がさぁ、知り合いなんだけど、女の子連れてこないなら雇わないって言うんだもん。』
ぷぅと口を膨らませてブリっ子するセージ。
可愛いとでも思ってんのか。腹立つ。
『可愛く言っても無理。』
『なんだよー!将来弟になるかもしれない俺を見捨てるのかよ!』
そう、こいつがさっきからキョウジを「兄貴」と呼んだりして、まさかとは思っていた。
たしかに、どこか面影があって、だからこいつに呼び出されてホイホイとついて行ってしまったんだ。
『あんた…キョウジの弟なの?』
『うん。』
『じゃあ合コンときわかってて…っ』
『あ、知らなかったよ。昨日呼び出したのは兄貴に頼まれたからで…』
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