かんのれあ
あれから何度か編集部へ行ったけど、

タイミングが悪かったのか、河野さんは席を外していたり、

よそ見すら出来ないほど忙しそうにしていて、

あたしはそれを遠くから見て、

誰にも気づかれないような息を漏らす事しか出来なかった。




もう、河野さんに甘えるつもりはない。



甘えるつもりはないのに―――



ただ、「読んだよ」の一言が聞きたいと、

あのたったの数ヶ月が――一緒に作品を作っていたあの頃の事が、

昨日の事のように、
いまだに心に引っ掛かっている。



いつかの鉛はだいぶ小さくなったけど、

ビー玉くらいの芯を残し、

あたしの胸に留まっている。
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