かんのれあ
「これからも、もっとたくさん……作品書いて、

色んな人に、もっとたくさんの人に……読んでもらって、必ず、一人前の作家になります。

絶対です」


「うん。それは俺たち編集者の夢で目標でもあるからさ。

何が何でも、必ず、つかみとってください。

かんのさんなら、きっとできるよ」


声に確信を込めるように、力強く言ってくれた。




あの時みたいに河野さんは、

あたしの頬を拭って泣き止ませようとすることは、できない。



だから、
この涙は自分の力で止めなきゃいけないものだ。



わかっているのに溢れる涙を、

今だけはと必死に堪えようとする。




「ありがとうございます」


そう言いたいのに、

嗚咽をかみ殺しているせいで、

思ったような声が出せない。



代わりにあたしは、深く頭を下げて最敬礼のお辞儀をする。




そうして一歩、二歩、三歩歩くと、

涙を拭って振り向き、笑顔を向けた。


今のあたしにできる、一番、最高の、笑顔。
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