かんのれあ
それからしばらく、あたし達は何もしゃべらずに歩いた。


やはり河野さんは疲れているらしく、この沈黙にすら気づいていないようだ。


とりあえずさっきの封筒が気になったので、適当に話題を振ってみる。


「あの、それ何の封筒ですか?」


「ん?あぁこれね!
――そうだ、かんのさんにもプレゼント」


「???」


河野さんはゴソゴソと封筒をあさると、やや丈夫なつくりの、あたしの手のひらと同じくらいの紙をくれた。


そこにはあたしの本のタイトルである『手のひらのセカイ』という文字と、

表紙イラストの切り抜き、そしてキャッチフレーズが、賑やかに飾られている。


「これ、ポップ……?河野さんが、作ってくれたんですか……!?」


ポップとは、よく本屋で見かける"ぜひ読んでください!"という作者や編集部のメッセージや、

"店長おススメ!"というような、販売を促す小さなカードのようなものを言う。


河野さんは何も言わず、あたしを横目に微笑んだ。
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