かんのれあ
何よりあたしは、河野さんに直接会いたかった。


直接会って、河野さんの口からちゃんと事情を聞きたい。



電話を切ると、携帯を握り締めたまま鞄のお財布と定期だけ取り出し、家を飛び出した。


自分の足を動かしている間も、電車を待つほんの少しの時間ももどかしい。



――この世界の壁という壁が全部壊れて河野さんのもとまで一直線で行けたらいいのに。




編集部のあるビルに着くと、急いで手続きを済ませ、エレベーターで9階まで向かう。


エレベーターの階を知らせるランプが9階をともすと、扉がゆったり、音を立てずに静かに開いた。
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