幕末Drug。番外編・其の弐−沖田総司−
『…っつ!?何するんですか!!』

驚いた俺は木刀を下げ、片手で顔に付いた砂を払った。

『…ハイ、面。』


土方さんの木刀が、俺の頭に直撃する。


『いでっ…って、完璧に反則っしょ!』


木刀で叩かれた場所を片手で押さえながら、俺は片目に入った砂利を出そうと瞬きを繰り返した。


『正々堂々の喧嘩に、反則も何もあるか。いいか総司…戦いは、命を掛けた本気の喧嘩だ。反則だろうがなんだろうが、生き抜いた者が勝者となり、死んだ者が敗者になる…。…それが嫌なら、大人しく剣術指南役になっておけ。』



命を掛けた…本気の喧嘩。



…言われてみれば、確かにそうだ。



戦場で敵に砂をかけられたからと言って、反則だなんて言っていられない。
ましてや落とし穴なんか掘られていた日には、相手の思う壺だろう。
卑劣な手段を使ったとしても、命を落とせばそこで終わりだ。


俺がいくら真っ当な手段で戦ったとしても、卑怯な相手の考えを読めずに刀を振れば、あっさり罠に引っ掛かり簡単に負けてしまう事も有り得るだろう。



--…俺には、実践で使える知識が圧倒的に足りない。


つまり


まだ此の道場で、学ぶべき事がある。


『…っあ、はは!』


不意に笑いがこみ上げて来た。


『…何が可笑しい?』


そんな俺を見て、怪訝そうな表情を浮かべる土方さん。


『すいません…でも、可笑しくて。こんな身近に答えがあったなんて、正直思って無かったんで。』


俺は、笑いながらゆっくり立ち上がった。


『…俺にも、まだまだ学ばなきゃいけない事がありました。』


土方さんを真っ直ぐ見つめる。


『ねぇ土方さん…俺は土方さんみたいに卑怯な性格して無いけど、いつか土方さんの罠を見抜いて勝ってみせますよ。』


俺の言葉に、土方さんは溜息を吐いた。


『…お前、良い度胸してんな。』


『度胸だけが取り柄なんで。』



…大切な者を守る為には、沢山の事を知らなければならない。







俺はもっと…---強くなれる。


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