彼女は悪魔
「ママ!」
女の子が嬉しそうな声をあげ、
女のもとへかけた。
その女が女の子を抱きしめ
青空は内心ほっとしていた。
見つからなかったらどうしようとか思ったりもしていたのだ。
「よかった…」
青空は独り言のつもりで呟いた。
なのに、
「あなた誰?」
女に驚いた顔で尋ねられ
「え?…あ、私は…」
青空が答えるよりも先に、
女がヒステリックに叫んだ。
「あなた…あたしのゆいに何しようとしたのよ!?」
「え…いや、一人で女の子が歩いてたから、どうしたのかなあと思って……」
青空は状況を説明しようとしたが、
女にものすごい形相で睨まれ、言葉が続かなくなってしまった。
「あなたも……あたしからゆいをとる気なの…?」
女が怒りと悲しみと憎しみの混じった声で、
呟くように、叫ぶように、
言葉を放つ。
「え、いや、あの、だから!
私はただ…声をかけただけでっ」
青空は焦っていた。
よく分からないことに巻き込まれていることに気がついたのだ。
「なんてひどい子なの」
急に、女から表情や感情がぬけ、口から言葉を落とした。
はさみを握りしめたまま立ち上がった。
「悪い子ねお仕置きしなきゃ」
女の子が、女の足にしがみついた。
「ママ!だめだよ!おねえちゃんは悪いことしてない!」
「この子はね、ママとゆいを離す気なのよ?」
「そんなんじゃないよ…っ」
「どきなさい」
静かに言いながら女の子の髪をつかんで
足からひきはがした。
女は、自分の足元で大泣きする子供を無表情で見下ろしながら呟いた。
「あの子のせいであたしのゆいが泣いてる。」
青空はもう、何がなんだか分からなくなっていた。
逃げればよかったのに、
ぐちゃぐちゃな頭でそれを見ていた。
「許さない…っ!」
何もなかった女に『怒り』という感情が満ち溢れた。
次の瞬間、
女がはさみをにぎりしめ
奇声をあげながら走ってきた。