彼女は悪魔
何を考える暇もなかった。

普通の歩幅で2、3歩分しか距離がなかったのだから。

後ろに足を引くと、焦りすぎて尻餅をついた。

迫る刃から身を守ろうと、無意識に腕が壁をつくった。

近づいてくる

怒り狂った顔と鋭くはない刃






どれだけ待っても痛みを感じない――


青空はゆっくりと腕をおろした。


「え……」


目の前にははさみを振り上げたまま、動かない女。

叫ぶように泣いていたのに、

女の子の泣き声が止んでいた。

そのうえ、空を飛んでいたカラスは、羽を広げたままぴたりと止まり、

遠くで聞こえていた車の音も消えていた。

動いているのは自分だけ

聞こえるのは自分の吐息。



バサッ



そこに聞こえたのは空からの鈍い音。

きょろきょろと動かしていた頭を、空へ向ける。

そこにいたのは黒い鳥。

ただの鳥ではない。

人の姿をした黒い鳥。



「お前、俺と契約するか?」
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