彼女は悪魔

「静かなところですね」



白い翼が少女の背中から率直な感想を述べた。

少女はキョロキョロと辺りを見回していた。


「ここには誰もいないの?」


「いることはいますが…まだきていないようですね。」




ぴちゃ


少女の頬に一滴の水。


「ねぇ。どうして空から水が落ちてくるの?」

「これは雨と呼ばれる現象なんですよ。」

「意味わかんない。分かるように言っ……」




「貴様」




和やかな空気を切る空からの鋭い声



バサッ



黒い羽

鮮やかな着地。

顔をあげた彼女は少女を睨みつけた。


「立ち去れ」


そう言われたにもかかわらず

少女は無邪気に笑いかけた。

「はじめまして。わたし…」
「立ち去れ」

立ち上がった彼女は顔にかかる髪をうっとうしそうにはらいながら言う。


さすがに、二回目の命令口調には怒った顔をした。

「そんな言い方しなくてもいいじゃない!」

そう叫んだとたん


彼女の不機嫌そうな顔が悲しげな表情に変わり、


黒い瞳で少女をじっと見つめた。




少女はどうしたらいいのか分からず、小さく首をかしげた。


「……かえれ…っ」


消え入りそうな声で呟き、逃げるように飛び立った。



少女は呆然と、小さくなっていく黒い影を眺めていた。



「では、行きましょうか。」

「……もういい。帰る。」

「何故ですか?あの者の言ったことなど気にしなくてもいいんですよ。」

妙な必死さがこもる声。

「いいの。また来るから。」

「ですが、もう少しくらい居たって……」

「何なの?いつもは行っちゃいけないって言ってるくせに。」

白い翼は舌があるなら舌打ちをして羽ばたいた。



バサッ



白い翼は沸き上がってくる怒りを抑えていた。


次がある――


次に来た時――


『その時』がくればいい
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