彼女は悪魔
5.周り、というやつ
かちゃん
青空は家の鍵を掛け、
笑顔で小さな階段を駆け降りた。
玄関を出てすぐのちょっと高い塀から顔を出す。
伶美は目をつぶった状態で塀に寄り掛かっていた。
「遅い。」
綺麗な横顔が静かに口を開く。
「ごめんネ。行こー」
わざとにも見える明るさで
にこにこ笑いながら歩き出した。
いつものように沈黙の空間だったが、
そこにピリピリとした緊張感はなかった。
「全然何にも起きないねぇ。」
隣を歩く伶美に投げたつもりの独り言に
翼がだるそうに言葉を返す。
「後で何が起こるか分からないけどなー」
青空は後ろに顔だけ向けた。
「もーなんか縁起悪いー」
「とゆーかお前かばんの中、空じゃん。
何?授業受ける気無い?」
顔だけでなく体も向けて後ろ歩きになった。
「いーや、違いますー
全部学校に置いてるんです。
みんなやってますよ。」
「はあ?今年受験のくせに何してんだよ。
とゆーか何で今の…」
「おい」
伶美に左腕をつかまれ、バランスを崩しながら、
前に向き直された。
「…あ。」
青空と翼が重なる声をもらす。
そこにいたのは
低い身長と幼い笑顔――
真知だった。