彼女は悪魔
次の日

少女はまたやって来た。


今度は少女のもとへ、あの笑顔を浮かべて。

彼女は真っ黒な海の前で、膝を抱えて座り込み、

その腕の中に顔をうずめていた。

少女は昨日と違う雰囲気の彼女に違和感を感じながら、

彼女の隣に座った。

「何かあったの?」

「消えろ」

くぐもった声で呟いた。

少女は昨日よりひどくなった彼女の口調にため息をついた。


少女は彼女と仲良くなりたかった。


でも、一言喋れば『帰れ』としか言ってくれない彼女に

どう接すればいいのか分からなかった。

「ねぇ。この…黒い水ってどうして動いてるの?」

「……聞いたら…帰るか?」

少女は違う言葉がかえってきたのが嬉しくて

顔を輝かせた。

「うん!すぐ帰る!」

彼女はゆっくりと顔をあげ、

真っ黒な瞳でまっすぐ前を見つめ、

独り言のように呟いた。

「…『海』だから」

「だけぇ?」

「聞いたろ。すぐ帰れ。」

「やだ!そんなの知ってるもん。じゃあ、雨は?どうして降るの?」

海にむかって話していた彼女は、

その質問を聞いたとたん、少女の方に体を向けた。

「そんなこと知らなくていい。
――知る必要なんてない。」


少女はその時初めて彼女の中に『心』を感じた。


「どうして?」

そう聞くと、彼女の瞳がぐらぐらとゆれ、

ふいと黒い海の方に向き直った。

「ちゃんと答えた。帰れ。」

少女はこくりと首を縦に振り、来た方向に歩いて行った。
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