彼女は悪魔
しばらくの沈黙のあと、
伶美が頭をぶんぶん振った。
「駄目だ。嫌だ。無理だ。ぞわぞわする。」
青空はずーっと笑顔のまま。
「これから
私といるときの『伶美』は
『伶美ちゃん』になりますから。」
青空は、翼が玄関におりてきてすぐに伝えた
『これから』についての
約束、
というか
規則
を、もう一度言った。
「なんか…」
右手のはじをつかまれ、停止したままの翼が
少しだけたおれた体をひゅっと起こした。
「なんかさ…」
「ダメですか?」
「いや…別にいいけどさ…」
「なんですか?」
どこかを見るわけでもなく、視線はどこにもいかず、
一点を見つめ、放心状態にみえる翼。
「なんだ。言うことがあるなら言え。」
伶美がいつものようにそう言うと、
「何もないけど?」
突然、いつもの翼が戻ってきた。
「アハハ、いーんじゃね?
女の子っぽくてー」
不思議そうに翼を見る青空。
それに気づいた翼が、一瞬だけ青空のほうに目をやった。
青空はまた、質問マシンガンに手をかけているが、
撃ち始めていいことなのか決めかねている。
翼はくるりと背を向け
「ま、さっさとがっこーいこーぜ
時間やべーぞー」
が、青空の瞳は不思議そうに見るのをやめていない。
二人の間の空気を眺める伶美。
黒い瞳が、青空、翼、青空、
と動き、
「俺はこんなのする気ないからな。」
青空と翼を置いて通学路に。
「うん……
え。
いや!しとこーよー」
青空は、さわさわと揺れる長い黒髪を追いかけていった。