【短編】優しさなんていらないの



あたしは春に駆け寄ると、春に抱きついた。
するとキョトンとした春があたしの顔を覗き込んでくる。


「柚未……?」


あたし……。
やっぱり不安だよ。


春にしがみ付くと、春はフッと笑ってあたしをギュッとしてくれた。


もっと……ギュッとしてほしいよ。
もっと……春を近くに感じたいよ。
もっと……あたしだけだよって思わせてほしいよ。


優し過ぎる春が嫌になる。
ワガママなあたしが嫌になる。


「春……」


「ん?」


「……優しさなんていらないの」


「え?」


あたしが欲しいのは、優しさなんじゃないんだよ。


「あたし……もっと確信がほしいの!春にはあたしだけなんだって確信が!」


涙が溢れてくる。
泣きたくなかったのに、もう我慢できなかった。
溢れてしまった。
涙と共に、あたしの想いが。


……ごめん。
こんなの八つ当たりだよ。


すると春は眉を下げた。


「俺には……柚未だけだよ?」


「違う!!」


違うの……。


「春は誰にでも優しくて……!!それが嫌なの!!」


彼女なのはあたしなんだよ。
他の子と一緒なんて嫌なの。
春の特別でいたいの。


抱きしめられた力が一瞬緩む。
それに気付いたあたしは、バッと春から離れた。
そして涙を拭うと、あたしはその場から逃げるように走った。


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