【短編】優しさなんていらないの
あたし……それを望んでた?
ただ、あたしだけに優しくしてくれるのを望んでたの?
春にあたしは……。
少しずつ亘の顔が近づいてくる。
春は……優しい。
いつもあたしを喜ばせようとしてくれて。
いつもあたしにドキドキとときめきをくれる。
子供なあたしを“可愛い”って言ってくれて。
不安なあたしを黙って抱きしめてくれる。
そんな事……。
他の人にしてた?
ううん……してないよ。
あたしだけにしてくれてた。
あたしだけにくれた優しさ。
誰にでもなんて……そんなのなかった。
春はあたしだけを見てくれてた。
あたし……何を見てたんだろう。
春の何を見てたんだろう。
「ごめん」
あたしは近づいてくる亘の顔から離れた。
「あたし……春が好きなの」
「柚未……」
「誰にでも優しいけど……。あたしにだけ特別をくれる春が好きなの」
優しくあたしを見て微笑んでくれる。特別。
優しくあたしを抱きしめてくれる。特別。
優しくあたしにキスしてくれる。特別。
それは春だけにもらえれば十分。
春以外からは、いらないよ。
すると亘は眉を下げて笑った。
「そんなの知ってたよ」
「え?」
「行けよ。それ……先輩に渡すんだろ?」
そう言って亘はあたしに背を向けた。
その言葉にあたしは持っているチョコの入った紙袋を見つめた。
……そうだ。
「亘。ありがと……。嫌な奴だと思ってたけど、好きになってくれてありがとう」