【短編】優しさなんていらないの
顔を上げると、春はキョトンとしている。
その顔も愛しい。
あたしの腰に回す長い腕も……。
低い声も。
全部、愛しい。
「ちゃんと春を見てなかった。誰にでも優しいって思ってばっかで……。あたしは特別じゃないんだって思っちゃって」
そう言ってあたしは春にしがみ付いた。
「でも……。春はあたし以外を抱きしめたりしないよね。あたし以外にキスしたりしないよね」
春を見つめたまま聞くと、春はフッと可愛らしい笑顔を見せた。
「……うん」
そうだよ。
そうなんだよ。
あたしは春の特別なんだよ。
不安になる事なんかないんだよ。
すると春はあたしの顎をクイッと持ち上げて唇を重ねる。
熱い春の唇の体温が、じわじわあたしの唇を支配する。
頭がボーっとして何も考えられなくなる。
ただ春が好きって事しか考えられなくなる。
唇が離れると、お互い照れて微笑みあった。
あ、そうだ。
あたしは自分の持っている紙袋を思い出してそれを春に差し出す。
「え?」
「これ!あたしからのチョコ!春はいっぱい貰ってるだろうし。他のやつみたいにおいしくないかもしれないけど……貰ってくれる?」
キョトンとする春にあたしは精一杯、一生懸命伝えた。
ドキドキするな。
去年もこうやって渡して……。
すごく緊張してた。
でも今はもっと、緊張してる。
すると春はフッと笑ってあたしを抱きしめた。
「……ありがとう」
春の声があたしを包む。
あたしは春にしがみ付きながら口を開く。
「あたし……。春の特別なチョコになるように頑張ったから」