【短編】優しさなんていらないの
しばらくすると校舎に入っていって、春の姿は見えなくなった。
見えなくなってあたしは机に顔を伏せて、また……。
「はぁ……」
……溜め息。
すると梨奈があたしの所にやって来た。
「柚未ー、おはよー」
「あ、おはよー……」
あたしは机に顔を伏せたまま返事をした。
するとあたしのテンションの低さに梨奈は、眉を下げた。
「何?またあんた、春先輩の事で悩んでんの?」
そう言って呆れたようにあたしの頭をポンポンと叩いた。
梨奈はあたしの悩みを知ってる。
……前に、相談したから。
あたしは静かに頷くと、梨奈はわざとらしい溜め息をついた。
「あんたホントに……贅沢な悩み抱えてるよね」
「贅沢?」
……どういう事?
「だって彼氏が優しいなんてこれ以上いい事ないじゃん。それなのに、その事で悩んでるなんて……」
そりゃ……。
優しくしてくれるのは嬉しいよ?
でもさ……。
「誰にでも優しいのって……どうよ?」
毎日毎日、他の女の子に笑顔振りまいてさ?
まぁ……。
それは春の性格だから、ってのは分かってるから仕方ないと思うんだけど。
でも彼女から見たら、それって結構……複雑。
「誰にでも優しいのは嫌。ワガママだってのは十分分かってるよ。でも嫌なんだもん」
顔を伏せたまま呟く。
すると梨奈は優しく微笑んであたしの頭を撫でた。
「……それを伝えればいいじゃん」