【短編】優しさなんていらないの
プイッと顔を逸らして、あたしは教室を出た。
あたしはあんな苛めっ子相手にしてる暇はないんだよ。
春の事でいっぱいいっぱいなんだから。
そう……。
ただでさえ、悩んでいるというのに。
もうすぐ……さらにあたしが頭を抱える日がやって来る。
……バレンタインデー。
「……はぁ」
また溜め息。
今年も絶対……。
春にあげる女子たくさんいるんだろうな。
去年のバレンタインデーは、あたしまだ春と付き合ってなかったし。
何も言えないんだけど……。
去年はあたし、チョコあげるの苦労したなぁ。
勇気出して春の前に立ったら。
春……いっぱいチョコ持ってて。
笑顔で……。
“ありがとう”って言ってくれた。
でも、今思うと、あの頃のあたしのチョコはきっと。
いっぱいある本命チョコの中の1つでしかなかったんだろうな。
特別なんて事なかったんだろうな。
春にとっては……。
今年も……。
たくさんある本命チョコの1つになってしまうのかな。
彼女になれたのに……。
全然自信ないよ、あたし。
「はぁ……」
今日何回目の溜め息か分からないけど、また溜め息をついた時だった。
「柚未」
ドキン。
後ろからあたしを呼ぶ声を聞いて、心臓が暴れる。
……この声。
ゆっくり振り返ると、笑顔の春が立っていた。
「……春」
小さく呟くと、春はフッと笑ってあたしへ歩み寄ってくる。
何だかんだ言って……。
こうやって春を目の前にすると、ドキドキのせいで悩みを忘れてしまう。
ズルいよ、春……。
あたしの前で立ち止まると、春は口を開いた。