【短編】優しさなんていらないの



「柚未……さっき下から見てて、元気なさそうに見えたんだけど、大丈夫?」


あ……。


心配そうにあたしの顔を覗き込んでくる。


あたし……。
顔に出てた?


あたしは慌てて首を横に振ると、春を見上げた。


「ううん……。寝不足だったからかな?気のせいだよ」


嘘。
ホントは元気ないよ。
でも……、やっぱり言えない。


すると春は眉を下げて首を傾げる。


「そぉ?ならいいんだけど。無理しちゃ駄目だよ?」


「うん」


あたしは笑顔を作って頷いた。


分かってるんだ。
春は誰にでも優しい事は。
悪気があってこうやってあたしを不安にしてる訳じゃないって。
単にあたしのヤキモチ。
誰にでも優しくするのは嫌だけど。
ワガママなヤキモチで春を困らせるのはもっと嫌。
だから大丈夫。
我慢できるもん……。


「じゃ、俺教室戻るね。あ、帰り一緒に帰ろう?」


「うん。分かった」


そう言ってあたしは去って行く春の背中に手を振った。
すると後ろの扉で、教室からこっちを亘が見ている事に気付いた。


「……何?」


不機嫌になりながら亘に聞くと、亘はしばらくあたしをジッと見つめる。
そしてしばらくすると、首を横に振る。


「いや?……別に」


そう言って亘は教室に戻って行った。


何なの?
あれ……。


亘の行動に疑問を抱きながら、あたしは教室の中へ入る。




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