元彼の末路
 呆然としたままの凛花はしばらく動けず、やがて頭の中では『ママ』という直道の声が、何度もリピートされている。

 直道は『ママ』って云ったけれど、スナックのママの間違いじゃないだろうか。あの話し方、内容、あれは自分の母親に接する感じにはどうしても思えない。それに直道が母親に対し、ママって呼んでいる姿がどうしても想像出来ない。

 凛花は何となく腑に落ちないまま、家路に着いた。

 それからデートを重ねていけばいくほど、彼の携帯電話に着信が増えている。

 やっぱり、他に女性がいるのかもしれない。
 凛花は彼にこう切り出した。


「ねぇ直道、他に付き合っている女性がいるのなら、私達別れた方が」


 そこまで云うと、直道は凛花の言葉を遮るように、慌てて口を開いた。 


「俺は別れたくない。凛花が好きだし、他に女なんていないんだから」


「でも、よく携帯にかかってきてるし、本当は誰と電話してるの?」


 凛花にそう訊かれた直道は、ふっと笑みを零すと凛花の手を握った。


「誤解してるんだな。電話は本当にママだよ。とにかく今から俺の家に行こう。ママを紹介する」


 スナックのママ……の間違いじゃないのだろうか。本当に直道は母親をママと呼んでいるの? どちらにしても、凛花の心境は複雑だった。

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