元彼の末路
「ここだよ。初めて連れてきたから、何だか照れるなぁ」


 直道は自宅前に着くと、照れた素振りを見せている。

 直道の家は普通の一軒屋で、表札には苗字が書かれているし、本当に直道の自宅なのだろう。

 それにしても――と、今までのことを一気に振り返った凛花の鼓動は速さを増している。


「ママ~。今日は彼女連れてきたんだ」


 玄関を開けた直道は、家の中に向かって大きな声を出した。

 すると、小走りに玄関へ現れたのは、おそらく直道の母親だろう。歳相応の中年女性、けれども直道にはあまり似ていない。


「直く~ん。お帰りなさい。あら、そちらの方は?」


 中年女性は、直道の顔を見るなり満面の笑みを浮かべ、その次は視線をずらし、隣にいる凛花を見ると、鋭く氷のように冷たい表情に変化した。それはまるで、何十年も憎み続けた相手に向ける視線のようで、凛花は作り笑顔すら出来ず、時が止まったかのように固まった。


「この前、話したじゃないか。彼女だよ。ほら、凛花、家に上がって」


 上がってと云われても、中年女性に見下ろされ、固まった凛花の身体は動けないでいる。それこそ金縛りにでもあったかのように。


「どうぞ上がって下さいな。凛花さんって仰るのね、まぁ可愛らしい」


 中年女性は直道には笑顔を向け、言葉とは裏腹に凛花を冷たく一瞥した。
 そして、直道に引っ張られるようにして、ようやく凛花は家に上がったのである。

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