濡れない紫陽花
「嬉しい…!」
僕の返事を聞いて、すぐ彼女は美しい笑顔になった。
「私、美月 美雨。ミヅキ ミウ。美雨って、呼んで?」
美雨はそう告げ、子供のように嬉しそうにはしゃぐ。
「僕は、水野 葉季。ミズノ ヨウキ。好きに呼んでいいよ」
「じゃぁ、葉って呼ぶね」
美雨は僕の手を取り、ぎゅっと強く握った。
「明日から、沢山デートしようね」
「うん、わかった」
揺れる美雨の髪を撫でると、甘い花の匂いが香った。
そうして付き合いだしてから、僕等は他の誰より仲の良い恋人同士になった。
席も近く、家の方角は違うけれど毎日一緒に下校した。
2人でいるうちに、美雨のつけている香水の甘い花の匂いは、いつしか僕の制服に移っていた。
甘い、甘い、匂い。
(何の花の、匂いだったの?)