濡れない紫陽花
 
じめじめとした湿気が、肌ににわかに絡んでいる。


「もうすぐ梅雨が来るね」


いつもの帰り道で、美雨にそう話しかけた。


「蒸し暑いような、肌寒いような、季節だよね」


ちょっと嫌そうに、美雨が答える。



「すぐ明けるよ。夏になったら、花火がしたいね」

「…うん!あと、私は大きな花火大会、見に行きたいな」

「浴衣姿、見せてね」

「わかった」



微笑む美雨が愛らしい。

(浴衣、似合うんだろうな。)



早く浴衣姿が見たくて、僕も梅雨が億劫になった。

はやくやってきて、はやく去ってしまえばいいのに。




蒸し暑さに消されたのか、いつもの甘い匂いがかなり薄まっていた。

雨の日は少しも匂いがしないのだろうか。

ぼんやりそんな事を考えながら、美雨を家まで送った。



(このとき、気付けばよかったんだ)

 
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