濡れない紫陽花
 
「今日はもう帰ったほうがいいんじゃない?」


狂った思考回路を暴走させないよう、自分の胸を抑止しながら、昼休みにそう美雨に言った。


「でも、今日はもうすぐ終わりだし」


(また、その笑顔)


僕が浮かない顔をしてしまったのを見て、美雨が慌てる。


「葉と…葉と一緒に帰りたいから。あと少しだし、ね」



はっとする。

苦しんでいる美雨に気を使わせてしまった。



「ごめん」


その一言しか言えない自分が情けない。


下を向くと、美雨が背伸びをして、いつも僕が美雨にするように、美雨が僕の頭を撫でた。




しとしと。

しとしと。



雨の音が響く。



授業、早く終わってしまえ。


いつも以上にそう思う。



そのせいか、黒板の上の時計の針は、いつも以上に遅く感じた。

 
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