濡れない紫陽花
2人共笑顔なのに、2人して鬱蒼な表情で。
とぼとぼと道を歩く僕らは、とてもみすぼらしく思えた。
僕のせいで、美雨の美しさをみすぼらしさに包ませてはいけない。
そう思うものの、どうしていいか分からず、どうしようもなく行き場をなくした手で美雨の髪を撫でていると、不意に道が明るくなった気がした。
(明るい…?)
顔を上げて目の前を見ると、道路の脇にずうっと紫陽花が咲いている。
「これ、綺麗でしょ。今朝咲いたの」
美雨が今日一番優しい笑顔をした。
咲き乱れる紫陽花に囲まれた道は20メートル程続く。
降り注ぐ雨を弾くようにしてキラキラと輝く花は、とても美しかった。
まるで、初めて美雨を見たときのような――
目の覚める、美しさ。
「私、紫陽花だいすき」
にこにこと紫陽花を見つめる美雨が可愛くて、小さな傘の中でキスをした。
「また明日も一緒に見ようね」
紫陽花の道が終わる角を曲がると、そこが美雨の家。
「またね」
そう手を振って、また僕ひとりで紫陽花の道を通った。
こんなに美しい場所で。
キスするほどの距離にいたのに。
(甘い匂い、もうしない)