濡れない紫陽花

5. 泣き言

 
家に帰った僕は脱いだ制服を握り締めた。

少し前まで、毎日君の残り香がしたのに。

もう、何の匂いも残っていない。



(どんな、匂いだった?)



すごく、甘かったんだよね。

とても、優しい匂いで。

たしか、何かの花の――



(どんな、匂いだろう)




思い出せなくて、もう残っていない残り香を求めた。

なんて意味のない行為。



笑って欲しい。

けど、僕は君を捨てた。





(捨てたくなんて、ないんだよ)

死んでも言えないね。



僕に、そんな事を言う資格はない。


 
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