濡れない紫陽花
カーテンから漏れる光で目を覚ます。
朝晴れているなんて、久しぶりだった。
眩しい目を擦りながら時計を見ると、針が6時を指している。
丁度、いいかもしれない。
美雨の家の前の、紫陽花を見に行くことにした。
この時間なら、きっと美雨にも会わない。
美雨に会わせる顔などない。
けれど、美雨に逢いたい。
(捨てといて、未練がましいね)
美雨には会えない。
だから、美雨のように美しい、あの紫陽花を見にいく。
そう思って、制服に袖を通す。
もう何の匂いもしない。
机の上には、沢山の香水がぐちゃぐちゃに散らかっている。
たくさん試したけど、どれもちがうんだ。
あの甘い匂いじゃない。
手放したものがもう戻らないように――
きっとあの匂いは
永遠に手に入らない。
(そうでしょ?)