濡れない紫陽花
まさか。
そう思って右を向く。
すぐ隣に、美雨がいた。
手にはハンカチを持って、僕に差し出している。
目の覚める美しさ。
さらさら揺れる長い髪と、白い肌、大きな目、長い睫毛。
呼吸を忘れるようなその美しさに、また僕の目が焼ける。
美雨の姿が、思い出より美しく、綺麗だったから。
「使って?」
固まった僕に、ハンカチを渡そうとする。
まるで1年が嘘のように、普通に接してくれる。
やっぱり君には何も敵わない。
美しすぎる。
僕にそのハンカチを使う権利はない。
そのハンカチをこの汚い涙で汚すなんて出来ない。
会えて、嬉しいのに。
そんなこと、言えない。
(君を、捨てたのに)
優しさを受け取るなんて
できない。