濡れない紫陽花
立ち尽くす僕に構わず、君は僕のメガネに手を伸ばす。
「去年と変わってないね」
そういって、小さな笑みを僕にくれて、メガネについた涙を拭う。
(ダメだよ。汚れてしまう。)
そう言いたいのに、声が出ない。
美雨はさらに、僕の顔の涙をも拭った。
「葉の優しい顔も、変わってない」
「そんなはずない…!」
言葉にならない想いが、ぐちゃぐちゃに絡んでやっと言葉になった。
叫ぶように、怒鳴るように、吐き捨てるように出てしまった言葉にも、美雨は動揺しない。
「大丈夫、変わってない」
そう言って、いつかのように――
背伸びをして、僕の頭を撫でた。
甘い、甘い、匂いが香った。